「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」 金の匂いがしないが、猫の匂いはする

2014年前半、個人的にもっとも観たかった映画。

 コーエン兄弟新作、音楽映画、カンヌ受賞、黒髪のキャリー・マリガン、ティンバーレイクの歌、オスカー、と言ってもアカデミーのほうで、賞レースからの完全無視、カンヌから1年経っての公開、SHIPSとのコラボ、そして、愛しき猫。

 結論から言うと、予想を全く外さない、地味ーっな映画。

 主人公ルーウィンはカス野郎である。音楽に対して真摯な、とも決して言えず、将来の展望もなく、その場しのぎの小銭に手を伸ばす。やりたいようにやっている、というよりか、踏ん切りが、落としどころが自分でもどうつけていいのかわかっていないのだろう。

 それは、歌を仕事でやっていて、余興では歌わない、といいつつも、自分のレコードを売り込むときに、その選曲はないだろう、な歌を歌う。

 そりゃ、「金の匂いがせんな」と言われる。

 そんなだから不必要に周りの人間との口論は絶えない。

 だが、不思議と周りの人間はこのカス野郎を優しく、あるいは厳しくとも迎い入れる。

 彼はネコとともに行動するのだが、猫との自立的な訣別は彼のこれまでの生き方との決別を意味するのだが、彼自身が猫の象徴であり、猫が再び彼の生活圏に現れると、また彼は猫化するのである。

 そうやって、ルーウィンのストーリーは繰り返される。

地味な展開

 本作、フォークソングが聞ける人には楽しく観れる映画だと思うが、そうでない人には地味すぎて、つらいかもしれない。画面的なハイライトは全部ティンバーレイクがらみだし。

 ティンバーレイク、かっこいいです。曲も好きです。

 だが、これはダメな人が、さんざん女性に罵倒されつつも、仕事がちょっといい感じにこなしつつも、そもそもの負の連鎖からは抜け出せず、翻弄するも、ゴミみたいなプライドのせいですべてパーにするも、なぜか、愛され、という、俗に世にいう「愛すべきダメ男」をちゃんと「愛すべき男」として描けてる映画、としてみるとかなり楽しく観れると思う。

 たいがいは、そんなダメな人を愛すべき、というと嘘くささが匂って来るものだ。

猫の存在

 そうなっていない理由は、それに一役どころか、すべてを担っていると言ってもいいのが、連れ添う猫の存在があり、ルーウィンとうまく重ねることに成功しているからだと思う。

 確かに地味で、金の匂いがしないので、この映画自体の公開の遅れの理由はそのあたりなのかもしれない。

シンザン
シンザン

 だけど、そのかわり猫の匂いはしっかりするよ!

劇場公開日2014年5月30日

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