「her 世界でひとつの彼女」歩きスマホ

「her 世界でひとつの彼女」

 

舞台は未来?

 コンピュータに恋をする、とかは全く新しいものではなく、むしろ、満員電車で、命の危険を顧みず、右手にスマホ、なハードな現実を毎日見せつけられているだけに、

 「いやいや、近未来違うでしょ?」

 という前提から先ず臨むことになる本作の鑑賞。

魅力的な吹き替え

 スカーレット・ヨハンソンの声が嫌いなわけでは決してないが、吹き替えで鑑賞。

 あとで、原語で鑑賞しなおしましただが、吹き替えの素晴らしさにかなりびっくりしました。ヨハンソンのほうは、人間味、という狙いでしょうが、吹き替えのほうが人間味かつ機械的音声らしさのちょうどど真ん中にキマってたという印象が強い。

主人公は変わり者?

 さて、主人公セオドアだが、彼の職業が代筆、ということから、書く言葉は人の心を打つモノだが、面と向かっては、うまく言葉が出ない、というコミュ障、という定番なキャラクターかと思えば、そうでもないように見えます。

 一方、近未来という設定と、彼の身近な人物が、彼のOSとの恋、そのはしゃぎっぷりが、周りからはおかしく見えていない。

 そう、実は周りもみんな同じなのだ。

 唯一違うのは、別れた妻。別れた妻がどうも悪役のような、身勝手な見え方だが、そうではないと思います。

 彼女のみがいわゆる、「まとも」で、その他がみんなコミュ障、という。

 この物語は表面的には、OSに恋した男の悲喜劇に見えるかもしれないですが、そうではなくて、別れた妻とのコミュニケーションの回復に結び付ける物語。OSが彼の成功の手伝いとか、女友達とのぬるい締めとか、全体的に甘ったるいのだが、それはあくまで映画的なイベントであって、本筋ではないです。

本当のテーマ

 しかし、OSが急に消えたなら、利用者の数からして、もっと世間がパニックになったりするはずなんだが、そういう描写はないのは、まあ、映画のセオドア個人まわりの生活圏内のお話という世界観を崩したくないからなのでしょうが、このOSの存在がやや中途半端な印象があります。

 まあ、そこはたとえヨハンソンの人間的な声を使ったとしても、「本当の意味」で、OSにリアリティを持たせたくない、ということなのだろうと。

 100%自分のことを理解してくれている存在が消えてしまったとき、セオドアは気づく。

 ラスト、セオドアは誰かの言葉ではなく、代筆ではなく、自分のことばで、別れた妻キャサリンへ、謝罪と愛の言葉を送る。

 

シンザン
シンザン

 「大人」としてのコミュニケーション回復。この映画のキモはここにあります。

 

劇場公開日2014年6月28日

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