「ヒメアノ~ル」ネタバレ 吉田恵輔監督の、「恐怖」、復活。

吉田恵輔監督のこれまでの作品

懲りないダメおやじと娘、そしてそこの喫茶で働くイタイ女を描いた恐怖映画。
「純喫茶磯辺」。

彼女の、カワイイ妹からの、ロリ攻撃で振り回される主人公を笑うに笑えない恐怖映画。
「さんかく」

いつまでも夢をあきらめきれないイタイ女と自分を偽り続ける痛い男を描いた恐怖映画。
「ばしゃ馬さんとビッグマウス」。

町のアイドルが、スターを目指し、上京するも、うらぶれ落ちぶれ、ラブホテルの清掃員となった
女の娘を描いた恐怖映画。
「麦子さんと」。

共通するのは、「自分の事ではない、と信じている、思い込んでいる、見たくないと思っている「闇」を、明るく残酷に描写した作品であるということ。

直近作「銀の匙」をやとわれ、するならば、その彼がいよいよ帰ってきた。

ただし、その表現は昨今の「告白」「渇き。」「アイアムアヒーロー」などの、「R15」映画のジャンルにあたる、「直接的」描写を売りとしたものだった。

果たして、彼は帰ってきたのか。

「ヒメアノ~ル」のテーマ

原作未読。

濱田岳さん演じる岡田が主人公かと思えば、実は、ムロツヨシさん、三津川愛美さん、森田剛さん、のメイン3人のキャラをつなぐ狂言回しの役割。それぞれが「底辺」の歩んできた道、考え方、行動心理を濱田さんを通して描かれる。

本作のテーマにいじめ、ストーカー防止、はもちろんあるが、吉田恵輔監督からすると、「底辺」のさまざまな「生き様」を3人それぞれイタイ部分を見せつつ、ムロさん、三津川さんが濱田さんを通して「救われる」という風に描くと同時に、「それでも」救われない森田さんを描こうとしている。

これまでの一貫したテーマでもある、僕たちの、普段何気なくも、でも持っている「底辺」意識のこわさ、痛さ、救えなさがここでも容赦なく見せつけてくる。

濱田さんの、森田さんとの初めてのシーンでは、森田さんの普通っぽさゆえ、ムロさんの疑念は「妄想」に僕たちも見える。(このシーン、ラストの事情からすると、ちょっと不自然ではあるけど)。前半の時点では、明らかにムロさんは笑わせるが、「怖い存在」として見せる。ムロさんのほうが何かやってしまうのでは、という恐怖心を芽生えさせる。

だが、これは意図的で、後半の森田さんと対比し、「底辺」の生き様の「分岐」としてムロさんは描かれる。

ムロさんは、妄想し、仲間に迷惑をかけ、仲間に勝手にキレる「底辺」のひどい男だ。漫画チックだが、笑わせるのだが、同時に恐ろしい。

だがその彼は、社会人としておかしい無断欠勤、奇抜な髪形、を経て「トモダチを思う」人間に変わる。「ちょっとだけ」前に進んだ人間になるのだ。

だが、その時、ちょうど、森田と対峙する。

救われる人と救われない人

この流れがちょっとあっさりで、「救えない」森田と「救われた」ムロの対比に気付きにくい。そこは残念。

吉田監督としては若干ベタだが、まあ三津川さんのほうで、かわいいけれど、ベッドではあるある、的に、童貞男としては「みたくない」一面を見せるぐらいでしかないのだけれど、こちらも、ムロさんの「妄想する運命の人」というには、ちょっと、という童貞男の心を打ち破る。

一方、森田さんの異常さは、序盤のたばこの喫煙を注意されたところから顕在化してくる。この流れはとてもよく、森田さんの本性が徐々にとんでもない方向に進み、元いじめられ仲間とその婚約者を巻き込み、これがいいサスペンスにもなっているのだが、いよいよ物語が加速していく。

残念な点

だが、残酷描写や生々しいシーンが多すぎる。R15ではなく、R18にするべき。パチンコ店の件、中盤の原作では深いかもしれないが、富裕層の家への侵入、三津川の家の隣人とのやり取り、などもっと削れるエピソードも多い。

北野映画に影響を受けている部分も多く、初期の武監督が撮りそうな題材でもある。

吉田監督独特の「間」

だが、前半の「味」、演者の「間」はやっぱり吉田恵輔ならでは、だ。そこはやっぱり吉田恵輔映画ファンとしてはうれしい。

「底辺」であっても、「仲間」「恋人」がいれば、救われるのだ。

濱田さんは、森田さんが友達に裏切られて「壊れた」と思いたい。そして友達との「いい思い出だけ」を思い出した森田さん。

恐怖演出とそのうらにある優しさ。これこそ吉田恵輔監督の真骨頂。

さいごに

森田さんの恐ろしさを描くと同時に、一般人の、何気ない「うっかり行動」にも容赦ない。

モノにあたる森田さんを見て、電話で聞こえるように「変な奴がいる」と言ったせいで、尾行され、惨殺されるシーンなど、森田さんへの恐怖以上に、「やってしまいそうなうっかり行為」をしてきた僕達のほうが凍る。

ラストの、森田さんと濱田さんとの絡みで、犬登場でハンドルを切る森田さんだが、「白い犬」を見てよけたのではなく、あれでは反射的によけたようにも見えるので、そこも惜しい。

劇場公開日 2016年5月28日

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